ごあいさつ

ごあいさつ 2023年2月

草花堂を開院してから、おかげさまで5年の月日が経ちました。5年の間にさまざまな出会いがありました。

一方、季節の移ろいに激しさを感じるようになり、四季折々の風情を慈しんだあの頃に懐かしささえおぼえます。武蔵野の美しさは変わらずにあって欲しいものです。

草花堂では、これからも地域の皆さまの「養生」のお手伝いをさせていただきたいと考えています。今後ともどうぞ宜しくお願いいたします。


院長 小澤 奈美子 

はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師

(東洋鍼灸専門学校卒業)

「草花堂」開院にあたって  2018年6月

私はかつて、都内に在住し会社員として働いていました。当時は、スーツにハイヒール、満員電車通勤、一日中パソコンに向き合うデスクワークという生活を送っていました。ひどい肩凝りが慢性化し、痛みで腕が上がらずヘアドライヤーをかけることも不便なほどでした。目は乾いてコンタクトレンズをつけられなくなり、冷えとむくみも悪化して、今になって振り返ると体調は絶不調だったと思います。しかし、それが当たり前のようになっていた私は、無意識のうちに諦めて、その苦しみから脱するすべを知りませんでした。


年齢を重ねながら様々な経緯を経て、東洋医学に出会いました。きっかけは偶然のようなものでしたが、自分に必要な施術との出会いに「これだ」と力が沸く思いでした。心身の様々な悩みを抱える、自分以外の人にも知ってもらいたいと思いました。最初は不安もありましたが、思い切って「治療家」として開業しようと心に決めたのが、ちょうど10年前です。


会社勤めをやめて学校に通い、国家資格を取得して、治療家として勤めながら、準備を続けて来ました。知識を蓄えるだけでなく、自分でも東洋医学的な健康管理を実践するうちに、心身の健康維持には自己治癒力を高めることが非常に重要であるという東洋医学の考え方を深く理解できるようになりました。自然に応じた当たり前の生活を送ることの大切さを痛感し、都心から少し離れたこの地に住まいを移しました。幼少の頃に住んだ経験があり馴染みがあったことと、素晴らしい武蔵野の自然に触れて人間らしい生活を送りながら治療にたずさわりたいと考えたからです。


草花堂では、この地域に暮らす皆さまがより健やかな自己治癒力を取り戻し、自然な健康管理を行なっていただけるためのお手伝いをさせていただきたいと考えています。

鍼灸と養生

私達の身体には、異変が発生すれば自ら治そうとする力がもともと備わっています。鍼灸治療は、そのような人間が本来持っている自己治癒力を利用する治療です。

草花堂では、鍼(はり)、灸(きゅう)、マッサージによりお身体全体のバランスの乱れを整えることで、皆さんの自己治癒力を引き出すお手伝いをします。言いかえると、鍼や灸が症状に対して直接作用するのではなく、身体が治そうとする力を取り戻すための働きかけをするということになります。

したがって、治すのはあくまでも皆さんご自身の身体に備わっている力です。この力が極端に弱くなっていると、不調を整えようとしてもなかなか思うように治癒が進まないということになりかねません。

いざという時に治癒力をしっかり発揮できるために、ご自身の身体をいたわる習慣が非常に重要になります。食事や睡眠をないがしろにせず無理をし過ぎないこと、また、日頃から身体の声を聞くことが大事です。ご自身に合った運動を生活に取り入れるのも良いでしょう。調子が良くない時には、自ら真剣に治そうとする心構えを持つことも大切です。こうしたことが全て、養生(ようじょう)なのです。

特別な治療をしなくても、日々の養生によって健全な自己治癒力が保たれ、少しの異変があってもご自身の力で治癒できるのが理想です。しかし、もしご自身でお身体の不調をどうにもできなくなってしまったら、心と身体をリセットするためにお越し下さい。できる限りのお手伝いをさせていただきます。

鍼と灸(虚実の補瀉)

東洋医学には、身体にとって不必要なものを取り除き(瀉 しゃ)足りないものを補う(補 ほ)という治療の考え方があり、それらを合わせて「補瀉(ほしゃ)」と言います。また、足りない状態を「虚(きょ)」、多すぎる状態を「実(じつ)」と呼び、鍼灸は、これらを補瀉する、すなわち調整するための手段にあたります。

鍼は瀉にむいていて灸は補にむいていると言われることもありますが、私は、それぞれが「補」「瀉」両方の性質を備えていると思います。

鍼や灸の効果については、個人差がありそれぞれを明確に説明することはなかなか難しいですが、鍼刺激と灸刺激とで感じる心地よさは確かに異なり、人によってお好みも異なるようです。ぜひご自身で体感してみて下さい。

草花

私は小さい頃から道ばたに生えている雑草を見るのが好きでした。与えられた場所で小さな花を咲かせて実をつけ、ひたむきに生きようとする彼らのけなげな姿を見ると、わけもなく幸せでした。

やがて、山野草の多くが民間療法や漢方薬に使われてきたことを知りました。特別なものを求めなくても生活の場のすぐそばに宝石(原石)があると知り、とても嬉しい気持ちになったものです。

草や花に対するそのような思いがあり、また、お気軽に来院していただけるようにという気持ちを込めて、「草花 くさはな」という飾らない名前を治療院につけました。

「どくだみ」と「草花堂」

「どくだみ」は、一般的には、においが強く繁殖力の高い、どちらかといえば駆除すべき雑草として知られています。抜いても抜いても生えてきてアッと言う間にそこらじゅうを埋め尽くしてしまう、誰にでも簡単に手に入れられるものです。

しかし、一方では、日本薬局方に「十薬(じゅうやく)」として収録されている生薬(しょうやく)でもあります。その呼称については、十の薬効を持つ、重要な薬草(重薬)、などの由来が知られています。

私はこの「どくだみ」こそが自分の求めている “原石” であると思い治療院「草花堂」のシンボルマークに選びました。

白い十字架のような花5つと、複雑な色を持つ葉6枚を、五臓六腑(ごぞうろっぷ、東洋医学における内臓の総称)に見立てて大切に描き、健康を願って丸い輪(身体)の中にバランス良く収めました。下絵を描いてみると、シンボルマークの材料には和紙を使いたいと思いました。和紙の優しい風合いと存在感が、原石「どくだみ」の魅力にぴったりだと感じたからです。こうして、和紙による切り絵のシンボルマークが完成しました。これを撮影し、ホームページや診察券などのデザインに用いています。

また、どくだみの草からは、優しい色合いの染料が取れることも知りました。そこで、どくだみを育て、その葉をつみとり、大鍋で煮詰め、麻布を染めてみました。初心者のつたない仕上がりではありますが、何とも言えない色味が気に入りましたので、暖簾(のれん)に仕立てて治療院の軒先(のきさき)に下げることにしました。ご興味があれば、お近くをお通りの際にご覧になってみて下さい。

二十四節気

皆さんは、日の出や日の入り、雲の流れ、虫や鳥・木々や草花の変化などから、季節の移ろいや自然の生命の営みを感じていますか。私は、都心に暮らしていた時にはほとんど味わっていなかったということが、この地に暮らしてみてよく分かりました。

この辺りでは周りに高い建物がないため、朝日は輝きながら東の空に顔を出し、夕陽は真っ赤に西の空を染めてとても大きく見えます。武蔵野図と言うと、すすき野に大きな夕陽という構図が思い浮かびますが、本当にそのような風景を目の当たりにすることができます。

このような素晴らしい環境に恵まれて、土地に育った食べ物を味わいながら、健康にたずさわる仕事につけたことは私の幸せです。

日本の季節には、それぞれに素晴らしい味わいがあり、それぞれに適した暮らしがあると思います。私は、「二十四節気(にじゅうしせっき)」とは、これらを見事に表現した象徴のようなものであると感じています。比較的広く知られた節気として、「春分(しゅんぶん)」「秋分(しゅうぶん)」、「夏至(げし)」「冬至(とうじ)」、節分翌日の「立春(りっしゅん)」、「寒の入り」の「小寒(しょうかん)」「大寒(だいかん)」などが挙げられますが、これらに限らず全ての節気が、実に興味深いものばかりです。いくつか、ご紹介しましょう。

『こよみ便覧』(天明7(1787)年)では、それぞれの意味を確認することができます。例えば、「冬至」は「日南のかぎりを行て日のみじかきの至りなればなり」と解説されています。同じように、「穀雨(こくう)」は「春雨降りて百穀を生化すればなり」、「清明(せいめい)」は「万物発して清浄明潔なれば此芽は何の草としるなり」、「芒種(ぼうしゅ)」は「芒(のぎ)ある穀類稼種する時なればなり」、「白露(はくろ)」は「陰気やうやく重なりて露こごりて白色となればなり」、「霜降(そうこう)」は「つゆが陰気にむすぼれて霜となりて降るゆへなり」などと示されています。

たった二文字で見事にとらえられた特徴は、その季節を迎えてあらためて実感したいものばかりです。そこで、この解説と二十四節気の文字を待合室に掲げることにしました。24枚の板を買い求め、それぞれの節気にあった色味の板を選び、一文字ずつ彫刻刀で彫って、白い塗料を流し込みました。また、現在どの節気にあたるかのめじるしとして、その季節にふさわしい野菜を紙粘土(かみねんど)で作り貼り付けることにしました。季節に応じた野菜には、養生に役立つ栄養分がたっぷり含まれています。

天変地異が激しさを増している現代こそ、私達ひとりひとりに対し、自然をうやまい、季節に応じた暮らしを送り、心を豊かに保つ意志が求められているように思います。残された大切な自然と共に、健やかに天寿を全うしたいと願ってやみません。

手作り

当院では、色々なモノをできるだけ手作りで用意しました。素人が手本もなく試行錯誤でやるのですから、簡単なことではありませんが、自分で作ってみると色々なことに気づかされます。

例えば、治療で使う手ぬぐいは、蓬(よもぎ)と鬱金(うこん)で染織しました。色を定着させるためには媒染液(ばいせんえき)が必要です。私が利用したのは、お正月に栗きんとんを作る際に使うみょうばんです。きんとんの黄金色はくちなしの実からいただきますが、その色を定着させるために使うみょうばんを布の染織でも用いることを知りました。

さて、いくつか、手作り作品をご紹介します。待合室のいすや受付カウンター、下駄箱、玄関のすのこ、ポスト、縁台、踏み台などの家具は父の製作です。母には座布団(ざぶとん)を編んでもらい、掛け軸の文字も書いてもらいました。私は、既にご紹介したもののほか、表札などの木札や掛け軸、ごみ箱を作りました。看板は父と私の合作です。全てを挙げることはできませんが、結構たくさん作ったなと思います。

もの好きと思われるかもしれませんが、かつての人々は、こうしたこと(いえ、これ以上のこと)を日々の暮らしの中で、誰もが当たり前のようにやっていたのだと思います。手間はかかりますが、とても健全です。実際にやってみるとなかなか良いものですよ。