待合室 図書館 第1回目 『武蔵野』国木田独歩(明治31年)
院長日記 “待合室 図書館” では、当治療院の待合室にある図書たちを紹介しています。
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昭和24年5月20日発行 新潮文庫 草35A 定価100円
(分類「草」は日本文学の小説)
昭和42年10月15日 36刷改版
昭和44年6月20日 40刷
カバー 難波淳郎
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院長日記 “待合室 図書館” の第1回目は、どの本をご紹介しようかと迷いましたが、国木田独歩の『武蔵野』にしました。
書名と著者は知識としては知っていましたが、私がこの作品を読んだのは、つい2〜3年程前のことです。ある患者様が、度々、この作品の一部分を暗唱され、その魅力を私に語って下さったのがきっかけでした。それは、
「『昨日も今日も南風強く吹き雲を送りつ雲を払いつ、雨降りみ降らずみ、日光雲間をもるるとき林影一時にきらめく、--』これが今の武蔵野の秋の初である。」
という部分です。
彼女も私と同じ武蔵野に住みながら、この作品『武蔵野』で語られる風景のそこここに同感を覚える思いでいらしたようで、暗唱を伺っているだけで、不思議と私の脳裏にも武蔵野の景色が見えるようでした。
いざ読んでみると、まるで治療院の近所を散歩しているときに感じられることが語られているようで、非常に親近感を覚えました。林、平地、風、雲、光、落ち葉、月……。
私はすっかり国木田独歩の『武蔵野』に夢中になり、久米明の朗読『武蔵野』のCDも購入し、料理を作りながら聞きました。
そして、明治31年1月に書かれたこの作品のもつ武蔵野の景色の魅力が、今も感じられることが嬉しく、有り難く、この武蔵野を後世にも残して行って欲しいと思いました。
すると、『武蔵野』というドキュメンタリー映画が制作されたことを知り、2018年4月、川越のスカラ座に見に行きました。副題は「〜江戸の循環農業が息づく〜 『日本農業遺産』の農村の輝きを、映像美と共に伝えるドキュメンタリー映画」となっています。
映像をはじめ、風や落ち葉の音、鳥の声などが素晴らしく、深呼吸をしたくなるような作品でした。映画のパンフレットには、原村政樹監督の思い「なぜこの映画を創ったのか」が掲載されています。
「 ー(略)ー いくら経済の成長を求めても、暮らしの中で自然環境との共生を無視した生き方には未来はありえません。人間も動物である以上、自然に生かされているからです。
私はこの映画で、そのことを伝えつつ、農業と一体となった武蔵野の雑木林、つまり『ヤマ(平地林)』を日本の大切な文化資源として未来永劫残すための力になりたいと、全力で創り上げました。」
原村監督の思いの伝わって来る、美しい映画でした。
待合室にはこのパンレットも置いてありますので、ご興味のある方はどうぞご覧下さい。
皆さんも、ぜひ一度、国木田独歩の『武蔵野』をお読み下さり、きらきらとした武蔵野の魅力を再確認していただけたらと願います。
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