待合室 図書館 第2回目 『皇后 美智子さまのうた』安野光雅(2014年)
院長日記 “待合室 図書館” では、当治療院の待合室にある図書たちを紹介しています。
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2014年6月30日 第1版発行 朝日新聞出版 定価1800円
協力 宮内庁侍従職
装丁 安野光雅
本書は、「週刊朝日」2014年1月3-10日号から3月7日号まで連載された「皇后美智子さまのうた」に大幅に加筆したものです。絵は本書のために描き下ろしました。
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院長日記 “待合室 図書館” の第2回目は、どの本をご紹介しようかと考えた末、残りわずかの平成を思い、『皇后 美智子さまのうた』を選びました。この本は、5年ほど前に患者様からいただいたものです。確か、私が患者様宅を訪問中に、ちょうどテレビに美智子様が映っていらっしゃり、この本の話になったと記憶しています。そして私が「安野光雅さんの絵は好きです」と申し上げたら、「もう私は読んだから」とこの本を手渡して下さいました。
彼女は書道家でいらっしゃり、御宅の表札は彼女の書でした。その文字は非常に優しく、味わい深く、私は、その表札を拝見するのをいつも楽しみにしておりました。御宅の中には彼女の書がたくさん飾られており、どれも素晴らしい、絵のような趣きのあるものばかりでした。「雨の字が少し斜めになっているのはわざとなのよ」と解説を受けながら、二人で書を眺め、 ”雨” を味わったこともありました。「雨」の文字の中の点々が雨粒のように書かれており、私は、文字の中にあたたかい雨の音を聞きました。
安野光雅さんの桜の表紙が美しいこの本には、ご成婚後55年にわたる間に、天皇・皇后両陛下がお詠みになった133首の掲載と、歌に対する安野光雅さんの思いが綴れらており、挿絵も描かれています。
いくつかご紹介します。
御所の花
この年の春……平成23年
草むらに白き十字の花咲きて罪なく人の死にし春逝(ゆ)く
わたしは「御所の花」を描くことになり、御所の中のドクダミも見た。緊張していて、わたしが広い皇居の中のどこにいるのか自覚する間もなく、急いで取材して急いで帰り、花の元気なうちに描かねばならぬことのくりかえしだった。ーー
ハンセン病のこと
皇后美智子さまにハンセン病療養所を訪問したときの歌がある。
多磨全生園を訪ふ……平成3年
めしひつつ住む人多きこの園に風運びこよ木の香花の香
ーーハンセン病についてくどくどと書いたのは、「ハンセン病の患者と握手しながら懇談された、なんとやさしい皇后なのだろう」と友人が感想をもらしたからだ。われわれの皇后ほど、哀しみのわかる人はあるまい、療養者の変形の進んだ手にご自身の手を添えてその哀しみをともにしようとされたのだ。それは、ただやさしいという言葉では言い表せまい、演技ではできない。人気とか、利益などのような不純な気持ちから手を添えることはできまい。わたしは、過去に迷惑をおかけした日本人に代わって詫びたいほどの心で握手されたのではないかとおもう。スイスのバーゼルで行われた国際児童図書評議会(IBBY)に出席されたとき、諸外国の編集者たちが口をそろえて、「日本にはなんとすてきな皇后さまがいらっしゃるのだろう」といったという。わたしたちは、世界に誇る皇后を持っているのだ。
私は、訪問鍼灸マッサージで車で回っていた頃に、よく多磨全生園の前を走りました。緑多く、外からは中の様子は伺えませんでしたが、ドリアン助川さんの小説『あん』の映画(河瀬直美監督)と、樹木希林さん演じる手の不自由な徳江さんのことを思いながら、ハンセン病について考えさせられたものでした。
(以下、挿絵より)
サクラ
ツクシ
ラベンダー
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